講学 政策法務

政策法務、地方自治、司法、事件、そして四方山話。硬い話、時たま、柔らかい話。
Author:Z-Berg

公契約条例案は継続審議 兵庫県尼崎市

 公契約条例については、これまでに2回記事にしています。
http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-110.html
http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-171.html

 尼崎市議会12月定例会では、議員提案によって条例案が提出されたようです。同市議会のホームページから、条例議案を見つけることができました。3本の条例案が提案されたようです。

尼崎市における公共事業及び公契約の契約制度のあり方に関する基本条例
尼崎市における公契約の契約制度のあり方に関する条例
尼崎市における公共事業の契約のあり方に関する条例

 市長は条例案に反対の意見を表明されているようです。1本目の「基本条例」は理念条例に分類されるものであり、一部修正などをすれば、これだけは成立させることはできるかもしれません。しかし、この基本条例に基づいた公契約・公共事業契約の各条例は、事業者に対してかなり厳しい規制を課すことになり、果たして実効性を確保できるのか、あるいは、最低賃金法との整合性は取れるのか、疑問がつきまといます。

 議員提案ということですが、提案された議員たちは、条例の法的な問題点をどうクリアされたと説明されたのでしょうか。議事録が出来上がっていませんので公式にはわかりません。過半数議決により可決された場合、市長は再議(地方自治法176条1項)に付すのではないでしょうか。また、条例案が最低賃金法に違反すると判断されれば、県知事への審査申立ても視野に入れているのかもしれません。
2008年12月27日

  月別アーカイブ

    2010年09月 (1)
    2010年07月 (1)
    2010年03月 (9)
    2010年02月 (10)
    2010年01月 (12)
    2009年12月 (13)
    2009年11月 (11)
    2009年10月 (9)
    2009年07月 (2)
    2009年06月 (19)
    2009年05月 (18)
    2009年04月 (19)
    2009年03月 (6)
    2009年02月 (21)
    2009年01月 (24)
    2008年12月 (10)
    2008年11月 (20)
    2008年10月 (16)
    2008年09月 (21)
    2008年08月 (12)
    2008年07月 (10)
    2008年06月 (10)
    2008年05月 (20)
    2008年04月 (13)

   

天晴れ、広島地裁 母子加算廃止を容認

生活保護、母子加算廃止も「不合理と言えず」…広島地裁
 生活保護受給者に対する上乗せ給付をめぐり、70歳以上の高齢者への老齢加算、1人親の家庭への母子加算を減額・廃止したのは、憲法が保障する生存権の侵害だとして、広島県内の27人(遺族1人を含む)が県と広島市など県内5市を相手取り、処分の取り消しと損害賠償など計約900万円の支払いを求めた訴訟の判決が25日、広島地裁であった。
 能勢顕男裁判長は「減額や廃止は不合理とまでは言えない」として、原告の訴えを棄却した。原告側は控訴する方針。
 同様の訴訟は、ほかに9地裁で起こされ、老齢加算については東京地裁が今年6月、原告の訴えを退けているが、母子加算については今回の広島地裁が初判断となった。
 老齢加算は1960年、母子加算は1949年に制度が始まり、老齢加算は1万数千円、母子加算(子ども1人の場合)は1万数千〜2万数千円が、基準生活費に上乗せされていた。厚生労働省は、2006年までに老齢加算を段階的に廃止。母子加算も減額され、来年4月に全廃される。


 読売新聞25日付記事からです。
 老齢加算廃止の訴訟については、東京地裁が適正な判決を出していることを、以前、記事にしています。
http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-47.html
 広島の裁判は、老齢加算のほか、母子加算の減額・廃止についてのものですが、東京地裁同様、適正な判断だと思います。老齢加算や母子加算の廃止で生存権が侵害されるというのは、荒唐無稽にもほどがあります。生活保護、最低生活費という言葉から、どうしても「低い金額」というイメージが先行してしまいますが、決してそんなことはありません。

 都市部での算出例で、24歳の母親、4歳と2歳の子どもの3人世帯なら、母子加算が廃止された後でも、21万円程度になるでしょう。家賃を差し引いても15万円はある。病気やケガで病院にかかっても負担はありません。ガンなど重大な病気でもです。平均的には、生活費とほぼ同額の医療扶助が支給されていると考えられます。真面目に勉学に励み、大学まで進んで、卒業した後、企業や官公庁に採用された人の初任給よりも、手取り額で遥かに上回っているわけです。最低生活費とは名ばかりで、「健康で文化的な生活」は十分保障されているのです。母子加算が廃止されたからといって、生存権の侵害だと主張するのは、納税者に対して余りにも失礼な話で腹立たしい限りです。

 老齢加算廃止についても同様です。70歳の夫婦2人世帯ならば、155000円程度でしょう。家賃を差し引いても11万円以上残ります。国民年金が満額でも月額7万円にも満たないことから考えても、決して生存権を侵害するようなものではありません。もちろん、医療費、介護保険料、そして介護保険サービスなども無料。あの悪名高き後期高齢者医療の保険料、医療費ももちろん無料。生活保護受給者の多くが介護サービスを限度一杯使い、毎日のように病院通いしているのはこのためです。中には、支給日間近になると手元にお金が残らないという不満を言う人もいるようですが、給料日前に財布の中が寂しくなるのは、多くの人が味わっていることです。身の丈に合った生活をするように意識改革をしなければなりません。

 マスコミ報道は、生活保護費の支給額の低さを強調しがちですが、マスコミの社員というのは、超高給取りなわけです。そんな人たちが月10万円で生活するということは、理解できないのです。上から目線でのマスコミ報道に惑わされてはいけません。昨夜放映されていたニュース番組で、アナウンサーが貧困問題に取り組む団体関係者をインタビューしていましたが、その団体関係者よりも、どう見ても高級だと思われる服装をしていたのが印象的でした。

 いずれにせよ、生活保護訴訟を支援しようという気持ちはどうしても生まれてきません。むしろ、最高裁が余計なリップサービスなどをしないことを心配しています。それにかこつけて、また要求ばかりする団体が跋扈することになりかねませんから。
2008年12月25日

裁判員候補者、実名で反対表明の言語道断

裁判員候補3人、制度反対訴え実名会見「裁きたくない」
 弁護士や学者らが呼びかけてできた団体「裁判員制度はいらない!大運動」が20日、東京都内で、制度への疑問などから裁判員になりたくないと主張する裁判員候補者3人の記者会見を開いた。いずれも60代の男性で、実名を公表して「人を裁きたくない」「制度そのものを廃止して欲しい」などと訴えた。
 会見に参加したのは東京都内の会社員(65)と千葉県内の元教員(65)、ITコンサルタント(63)。11月末に最高裁が候補者に発送した通知を受け取ったという。
 会社員は「人は裁かないという信条を持っており、裁判所から呼ばれても裁判員になることは拒否する」。元教員は「通知はそのまま最高裁に送り返した。残りの人生はつつましく暮らしたいと思っており、いまさら人を裁いて嫌な気持ちを抱いてあの世に行きたくない」と話した。
 また、ITコンサルタントは「法律の目的も理解できず、国会で真剣に議論されたかも疑問だ」と語った。
 裁判員法は裁判員やその候補者について、名前や個人を特定する情報を公開してはならないと定めているが、罰則規定はない。「大運動」事務局長の佐藤和利弁護士は「私たちは制度自体が違憲だと思っており、あえて候補者が実名で会見することで制度廃止を求める声を表に出したいと考えた」と説明した。


 朝日新聞21日付記事からです。
 裁判員制度に反対、あるいは、裁判員になりたくないのであれば、裁判所での面接の際、自分の思想信条から裁判員としての職責を果たすことはできない旨説明するなど、裁判員にならないように適法な手続きを行えばいいことです。

 しかるに、この人たちは、罰則がないことをいいことに、裁判員候補になったことを実名で表明し、そうした行動を法令を遵守すべき弁護士や学者が「扇動」しているというのは、言語道断ではないかと思います。この弁護士は、裁判員制度が憲法違反だから、違法行為をしても構わないという主張のようです。しかし、憲法違反かどうかは、裁判所が決めることで、弁護士が独断で決めることではない。自分たちの勝手気ままな思想信条で、違法行為を煽るような法律家は、厳正に断罪されるべきものです。

 本来なら、弁護士会が、こうした露骨な違法行為を行う弁護士を、即刻除名処分にすべきところです。それができないのであれば、法律専門家が法の抜け穴を悪用するような違法行為に対しては、国家がそれに代わって徹底して糾弾すべきです。

 また、朝日新聞は、こうした違法行為に対して、何ら疑問を呈しようとしない。まるで違法行為を賞賛するかのような態度にも見えかねません。
2008年12月21日

252 生存者あり

 たまには家族サービスということで、今日は昼前から、自宅から徒歩で20分ほどのところにオープンした巨大ショッピングセンターに行って来ました。とにかく広いわ、店は多いわ、人は次々と来るわで、大賑わいでした。本当に不況なのかと錯覚するくらいです。

 ランチは、かなり有名と思われる回転寿司屋。回転寿司といっても、職人さんたちが目の前で握ってくれるものです。安いし、美味い。文句なしでした。有名アイスクリーム店は長蛇の列で、ありつくのを諦めました。

 その後、言われるままに衣類を購入させられ、ショッピングセンターにあるものとしては、相当大きな書店に寄ってみました。法律書はそれほど品揃えはありませんが、文芸書などは十分。大きな書店が進出してくれるのは個人的にはありがたいのですが、小さな町の本屋さんが閉店してしまうという実情もあり、複雑です。

 夕方まで過ごした後、当初は予定していなかったのですが、併設されている真新しい映画館でみたのが標記の映画です。舞台は東京・新橋あたりということですが、もの凄い迫力でした。実際に、東京都心近郊で巨大地震が発生することは、しばしば注意喚起されていることですし、超巨大台風が発生しないという保障はありません。特に、「水」の怖さというものを改めて認識させられました。
2008年12月20日

司法修習落第113人

新試験組の5・6%不合格 司法修習修了で改善
 最高裁は16日、法科大学院を出て昨年の新司法試験に合格し、今年11月の修了試験を受けた司法修習生ら1811人のうち1710人が合格し、101人(約5・6%)が不合格だったと発表した。
 法科大学院1期生が対象だった昨年は、59人が不合格で、不合格率は約6・0%。今回は、法科大学院で法学部卒業者ら以外の未修者コース(3年)を終えた修習生が初めて含まれたが、合格率はわずかながら改善した。
 修了試験は法曹(裁判官、検事、弁護士)となるために義務付けられ、合格すればその資格を得る。現在の司法試験は、法科大学院出身者対象の新試験と従来の旧試験が並行して実施されている。
 11月の修了試験は、新試験組のほか、旧試験組で9月の試験に落第した受験者ら33人も含む計1844人が受験し、不合格者は過去最多の113人で約6・1%。昨年の不合格者は76人だったが、割合は約7・2%から1・1ポイント改善された。
 旧試験組を中心とした9月には609人が既に合格。今回と合わせると、年間で2340人もの法曹資格者が誕生することになった。


 共同通信16日付記事からです。
 法科大学院と新司法試験によって法曹人口を年間3000人にするという計画については、当事者の一角である日弁連が見直しを主張しているようですが、それ以前に、司法試験に合格していながら、司法修習を普通に卒業できない人が多いという現象をどう理解すべきなのか。本来、合格できるはずのない人が合格し、司法修習についていけず、落第するという事態を招いているのではないかと疑ってしまうのです。しかも、実際に弁護士になった後は、その人が「落第経験者」なのかどうか、サービス利用者である側はまず、判断できません。

 衆議院議員で前法務副大臣の河井克行氏の著書『司法の崩壊』(PHP研究所)では、法科大学院と新司法試験制度、そして法曹3000人計画について、辛らつに批判論が展開されています。
司法の崩壊 司法の崩壊
(2008/09/27)
河井 克行

商品詳細を見る


 その中で、最高裁が今年7月、報告書「新第60期司法修習生考試における不可答案の概要」を提出し、司法試験合格者の質の低下をうかがわせる重要な事実を明らかにされたと記述されています。司法修習生の卒業試験である「二回試験」の結果を分析したもので、「実務法曹として求められる最低限の能力を修得しているとの評価を到底することができなかった」とのことで、「到底することができなかった」という表現は、最高裁の危機意識を感じることができます。では、その不可答案とは、どういうものなのでしょうか。

例1 債務の消滅原因として主張されている民法505条の相殺の効果を誤解して、相殺の抗弁によっては反対債権との引換給付の効果が生じるにとどまる旨を説明したもの
例2 売買契約に際し、解約手付として手付金を支払ったことが記録上明らかであるところ、「解約手付」とは手付金の支払によって手付解除を可能にするものであるところ、その手付金の支払自体が「履行の着手」に該当するから手付解除ができなくなる旨説明したもの
例3 「疑わしきは被告人の利益に」の基本原則が理解できていない。「被告人は犯行を行うことが可能であった」といった程度の評価しかしていないのに、他の証拠を検討することなく、短絡的に被告人が放火犯人だと結論づけたもの

 司法試験に合格し、司法修習を終えようとしている人が書いた答案とはとても信じ難いものですが、こういう事例があるとのことです。特に例3は、ちょっとひどすぎるように思います。

 河井氏は、法科大学院の教育能力は、当初想定されていた水準に到底到達していないにもかかわらず、司法試験合格者だけは目標どおり増やされるため、質が下がっていくと断じています。先のような司法修習生による「迷回答」「珍回答」は、法科大学院での教育内容、カリキュラムと無関係だと考えることは困難だと思います。

 今年だけで、すでに2300人以上の法曹資格者が誕生しています。もちろん、有能な方が多いとは思います。しかし、一生に一回あるかないか分からないような事件に遭遇し、相談した弁護士が、先の落第答案を書いていたような人であれば、とんでもない被害にあいかねません。「弁護士」という肩書きがあると、普通の人は「優秀だ」と思い込んでしまい、本当なら楽々勝訴できたはずの裁判で、なぜか相手の主張をかなり受け入れる和解で満足させられるようなこともあり得ることではないでしょうか。

 医療崩壊とともに、司法の崩壊も、市民生活にかなり影響を及ぼすかもしれません。引き続き、強い関心を持ち続けたいと思います。
2008年12月17日

昨夜のNHKスペシャルをみて

 非正規雇用の問題を中心とした番組でした。全てを見たわけではありませんが、100年に1度とも言われる大不況の中で、非正規雇用の労働者たちが行き場を失うということは、社会不安の増長、治安の悪化という点からも重大な問題だと思わざるを得ません。国は、対策を講じると口先ばかりで、未だに何一つ実施できていないことに苛立ちを覚えるのは、多くの人と同じです。

 ただ、格差の問題や労働問題などについて、いつも思っていることですが、全ての人を同じように「社会的弱者は善人」「社会が救済すべき」「自己責任は問えない」という論調ばかりであることには強い抵抗を覚えるわけです。

 放映されていた中で、高校中退した後、10年余り非正規雇用の仕事を続けてきたが、不況のため解雇された男性が紹介されていました。2ヶ月前から生活保護を受け、正規雇用の仕事を探すために連日のようにハローワークに通っている様子が映し出されていたと思います。受け取っている生活保護費は家賃も含めて12万円余りと紹介されていました。この男性曰く、非正規雇用では不安定なままで、また同じ事を繰り返すことになるため、安定した正規雇用の仕事を見つけたいとのことでした。しかし、福祉事務所の職員からは、アルバイトでも何でもいいから早く仕事を見つけろと言われていて、それに対して憤りを覚えているような口ぶりだったと思います。非正規雇用のため、手に職をつけることすらままならなかったと主張されていました。

 番組そのものは2時間足らずのものでしたから、この男性がその後どうなったのかまでは放映されていません。しかし、容易に想像がついてしまうのです。おそらく、余程の強運が舞い込むか、極端に言えば奇跡でも起こらない限り、正規雇用への道はまず不可能ではないかと。

 10年以上も非正規雇用の労働を続けてきたこと、手に職がないことなどを正規雇用に就けない理由として強調しているようですが、そもそも読み書きなどの基礎学力がこの人に備わっているのかという根本的な疑問が生じます。何故、高校中退したのかはともかく、手に職をつけようとしても基礎的な理解力を備えていない限り、そういう機会があっても困難ではないでしょうか。例えば、非正規雇用であったため、パソコンの基本的動作や知識がないのはやむを得ないとしても、仮にそれを覚えたところで、その前提となる文書読解力や文書作成力、基本的な計算についての理解力がなければ仕事ではとても使い物にならないわけです。

 この男性の行く末は分かりません。希望が叶えればもちろん、それは素晴らしいことだとは思います。ですが、現実は現実です。福祉事務所の職員たちは、生活保護で最低生活を保障された稼動年齢の人たちが求職活動をしているのは、しばしば生活保護を受け続けるためのアリバイ工作であり、真剣さに欠けるものであることを熟知しています。こうした経験則から、この男性に対しても、アルバイトでも何でもいいから仕事をしろと言うのです。

 何年もの間、非正規雇用で仕事をしてきた人たちを正社員として雇用する企業が、果たして存在するのか、悲観的にならざるを得ません。そして、そのことについて、本人たちの自己責任は一切ないという論調に対しても、疑問を持ってしまうわけです。
2008年12月16日

自治体Xの議会基本条例

 議会基本条例については、これまでに2回、記事にしています。
http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-6.html

http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-96.html

 昨日、某所での会議に参加した際、ある自治体(ここではXとしておきます)の法務担当職員が、その議会で議会基本条例を制定したことを話題にされました。自治体Xの議会基本条例は、当然、北海道栗山町の条例をモデルにしたもののようですが、条例本来の趣旨目的、制定の背景などをまったく理解していないとのこと。

 その例として、議会報告会というのが条例で定められています。これは、議会でどういう条例案や予算案が提案され、それについてどのような議論を行い、あるいは、いかなる問題点があるのか議会として、どう審議し、議決したのかといったことなどを報告すべきもののはずです。ところが、多くの議員は、議案内容を理解していないため、報告することができないというお粗末な現状のようです。ではどうしているのかと尋ねると、広報紙に掲載されている記事を少し詳しくした程度のものを作成し、説明しているとかで。

 他の自治体の取組みについて、面と向かって批判めいたことは言わないようにしていますが、さすがにこの話を聞いたときは、「オマエとこの議会、バカじゃないか?」と口走ってしまいました。その法務担当職員も重々理解しているようで、栗山町が議会改革を粘り強く進めてきた仕上げとして、議会基本条例というルールをつくったということを全く理解しないまま、単に「格好の良さ」だけを求めて議会基本条例をつくった自治体Xが、同じような取組みができるわけがないのです。

 中味のない議会基本条例をつくって、嬉々としている議会というのは、ますますその存在価値を低下させているようで、モデルにされた栗山町議会もさぞかし迷惑なことでしょう。
2008年12月15日

続・北海道滝川市生活保護不正受給事件

滝川市、国に1・8億円全額返還 保護費詐取 職員給与カットも
 滝川市内の夫婦らによる生活保護費詐取事件で、滝川市は三日までに、国から不当支出と指摘され、返還を求められた生活保護費の国庫負担分の全額約一億八千万円を本年度中に返還する方針を固めた。市は四日から全職員向けの説明会を開き、返還への協力を求める。
 同市は当初、国に対する不服表明も検討したが、覆すことは困難と判断、自主返還に応じることを決めた。これに伴い、同市は「市税を使わない」(田村弘市長)形で、市負担分を加えた総額約二億四千万円を補てんする。
 同市はいったん市の財政調整基金を取り崩して国に返還する。
 その後については、田村市長や事件関係職員が中心になって補てんする方針だった。しかし、返還額が巨額になったことで、職員給与の削減などで対応する可能性が出てきた。同市は四日から十日まで一般職員や市立病院職員を対象にした説明会を開く。


 北海道新聞3日付記事からです。
 この問題については、以前、記事にしていますので、「続」と題しました。
http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-9.html
 1億8千万円もの巨費を税金を使わずに返済するとなると、職員1人あたりの負担額はかなりのものになります。福祉事務所職員だけではなく、福祉に全く関わったことがない職員たちにも負担してもらわなければ、おそらく返済は不可能でしょう。そうなると、福祉以外の職員たちは、福祉行政や生活保護法に対して猛烈な不信感、嫌悪感を持つことになると思います。

 以前の記事でも問題提起していますが、とにかく生活保護行政では不正というものに弱腰なのです。生活保護法そのものが不正に対する法的措置が不十分で、「だらしない人間」を擁護するようなものになっていることも影響しています。また、何よりも、滝川市の事件は、滝川市特有のものではないということです。言い方は悪いですが、「運悪く」表面化したため、こうした事態になっているのです。

 社会的弱者であろうが、金持ちであろうが、不正は不正です。社会的弱者という肩書きをつければ、犯罪行為も許されるという考え方が、福祉学者や団体関係者などから見え隠れします。一方で、行政関係者のミスは過剰なまでに反応するのが、こうした団体の特徴でもあるわけです。確認したところ、あれだけ騒動になった北九州市餓死事件で、刑事告発していた問題は、嫌疑なしで不起訴になったようです。当たり前の結論です。単なる自殺ないし事故死をあたかも犯罪事件であるかのように言い出し、北九州市職員たちに多大な迷惑をかけた団体関係者は、土下座して謝罪すべきはずですが、そういう話はでてきません。こうした反社会的勢力の存在は、この際、国家が総力を挙げて徹底的に殲滅すべき時期なのかもしれません。
2008年12月04日

悩み多き「二項道路」

 定期的に参加させていただいている研究会で、しばしば話題になるのが建築基準法42条2項、いわゆる「二項道路」についてです。都市法制について詳しいわけではありませんので、あまり偉そうなことは書けないのですが、建築行政現場における長年にわたる重大関心事項の一つのようです。なぜなら、建築物の敷地は原則として道路に2m以上接していなければならず(建築基準法43条)、その道路について悩みの種が尽きないようです。

 いちいち説明するまでもないですが、道路とは、原則として幅員4m以上で、かつ、道路法上の道路であることなど、建築基準法42条1項各号に該当するものです。早い話、幅員4mあれば、法的には道路になっていると思って差し支えないようです。しかし、実際には4m未満の道路は多数あります。そこで、建築基準法第3章、「集団規定」の施行時(1950年11月23日)時点(基準時)で現に建物が立ち並んでいる道については、4m未満のものでも特定行政庁が指定すれば道路とみなすことにしているわけです。そして、その指定も告示による包括指定という方法が採用されています。といっても、基準時に建物が立ち並んでいる4m未満の道をすべて二項道路とするわけにはいきませんので、告示の中で必要な要件を定めて、対象を絞り込んでいます。

 問題は、住民が基準時に、自己所有家屋の敷地が接道している4m未満の道が二項道路か否かを知らされているわけではなく、例えば自宅を改築するときに建築確認申請をするときは、二項道路かどうかを自分で判断しているのです。その際、特定行政庁と判断が一致すればいいのですが、そうではないと紛争になるわけです。建築行政職員たちは、実態と合わない二項道路への対応に頭を悩ませているようですが、国土交通省はこの制度を改める姿勢はまったくないようです。現場を知らない建築家が制度をつくるとこういうことになるのでしょうか。

 さて、先月、最高裁が建物が立ち並んでいないことなどを理由に、二項道路に該当しない判決を出しています。かなり重要な判例になるようです。
 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030
 二項道路指定処分不存在確認訴訟については、包括指定を行政処分ではないとする考え方が主流で、これを真正面から認める判決は平成11年4月19日横浜地裁判決だけでした(金子正史『まちづくり行政訴訟』(第一法規)82頁)。
まちづくり行政訴訟 まちづくり行政訴訟
(2008/02)
金子 正史

商品詳細を見る


 二項道路指定処分不存在確認訴訟についても、下級審の大勢はその適法性を認めないものでした。しかし、この最高裁判決はこの訴訟形式を受入れ、かつ、二項道路の「指定処分」は存在しないと明確に述べています。これによって、実質的に、最高裁は、二項道路指定の処分性を肯定したということでしょうか。そうだとすると、これも改正行政事件訴訟法の「効果」なのかもしれません。
2008年12月03日

ノルウェーの地方自治

 木村陽子「オスロの市議会と区議会について」自治研究9月号から12月号まで連載されています。以前、スウエーデンの地方自治と題して、木村先生の論文を紹介しています。
http://seisakuhomu.blog19.fc2.com/blog-entry-107.html
 今回は、ノルウェーの地方自治です。木村論文は、ノルウエーの首都オスロ市の市議会と区議会について詳細に論じられていますが、その前提としてノルウェーの地方行財政制度についても、かなり詳しく説明されています。外国法制に疎い者としては、ちょうどよい情報源になります。

 ノルウェーの国土面積は日本とほぼ同じで約38万5千ku、人口は約473万。日本の国土に人口500万の福岡県民が住んでいるようなものだと記述されています。地方制度はコミューンと県の二層制。コミューンは430あり、県は19。県長官は官選です。人口規模からみて、いかに多くの自治体があるか理解できます。それでも1958年に大規模な市町村合併が始まり、1965年まで続いていたとのことです。

 オスロ市は人口約56万で、唯一の50万都市です。「市」の意味が論文からは分かりづらいのですが、コミューンでもあり県でもあり、そして市でもあるようです。住民1人あたりの平均粗収入は約560万円。物価をはじめ社会経済情勢が日本とどの程度異なるのか分かりませんから単純比較はできませんが、かなり高い収入であるとは思います。

 スウエーデンのマルメ市と同じく、オスロ市も「大きな政府」のようです。市職員数はフルタイム換算で33,693人(2007年)で、経常歳入予算は約6700億円となっています。1970年代に北海油田が開発されたことで、世界有数の豊かな福祉国家であり、男女共同参画が最も進んだ国として、日本では福祉専門家などが、しばしば「良いところ」ばかりを「摘み出して」紹介していますが、やはり税負担はかなりのものだということです。歳出は福祉と教育で8割を占めていますが、それだけの税負担がなされていればこそだと思います。

 外国法制、特に社会保障や福祉について比較する場合、もっと具体的にみなければ、うわべだけで判断するととんでもないことになります。特に、ノルウェー国民の生活ぶりと日本のそれが一致するはずがありません。国全体が慎ましい生活をしながら、老後は国家で面倒を見てくれるような仕組みがヨーロッパでは採用されていると理解していますが、日本で同じことが可能かというと、かなり疑問符がつくのではないでしょうか。
2008年12月01日

| HOME |