名誉市民に対する年金の支給(前編)

 社会や文化の発展等に功績があり、郷土の誇りとして市民から尊敬される者を名誉市民として顕彰している地方公共団体があります。こうした地方公共団体の中には、名誉市民に対して年金を支給しているところもあります。
 憲法第14条第3項前段は、「栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない」と規定しています。ここでは、名誉市民に選定することが「栄典」に当たるのかどうか、年金を支給することが「特権」に当たるのかどうかが問題になります。
 行政実例では、名誉市民に対し、「市の施設の使用に関する使用料及び手数料の減免、本人の生活に対する便宜の供与又は援護、その他市長が必要と認めた特典又は待遇」を与えることについては、「名誉市民に対し、その功績を顕彰するに相応しい礼を以て遇するものである限り憲法の規定の趣旨に反しないものと解」(昭和32年1月23日付け自丁行発第6号)されています。
 このことを解説した「注釈地方自治関係実例集」(地方自治制度研究会編/ぎょうせい)によると、「憲法第一四条の栄典は、天皇の国事行為として授与する栄典(憲法七Z)とはその範囲を異にし、ここに規定する栄典に限られず、広く公に与えられる栄典をすべて含むものと解されている(法学協会編「詳解日本国憲法」上巻三五四頁)。このように憲法第一四条の栄典の意義を公の権威による表彰のいっさいであると考えるときは、地方公共団体が条例の定めるところにより、一定の功績のある者に名誉市民の称号を与え、表彰することは、規模の大小、程度の差はあるとしても、それは栄典に該当するものと解さざるを得ない。いわば、名誉市民として選定されることは、栄典の一態様であるといえる。次に名誉市民に与えられる待遇が憲法第一四条の特権に該当するか否かという点であるが、同条は、民主主義憲法の一つの特徴である封建制度の否定の一環をなすものであって、同一条件の下に、すべての国民が法規の適用上又は法規の立法上平等の取扱いをうくべきものとして、行政権、司法権を拘束し又は立法者を拘束しようとする平等の原理に基づく国民固有の基本的人権として認められている趣旨に照らして考えるならば、ここにいう特権とは、広くいっさいの事実上の差別待遇を意味するものではなく、例えば世襲的な華族制度とか、租税の免除のごときものを指すものということができ、それは生来的、先天的な差別待遇は特権とすべきであるが、個々の人の後天的な功績によって差別が与えられるがごときものは特権とすべきでないものと解してよかろう。また、個々の人の功績を公に称揚することは、国の例をみても、文化功労者に対する文化功労年金の授与(文化功労者年金法)等のごとく差し支えないものとされており、その功績にふさわしい限りにおいて、公の立場から便宜を供与することを憲法上の特権と解して憲法違反とする論拠を見出しがたい。
 上述したところからして、設問の名誉市民条例については、名誉市民に種々の特典、待遇を与えることは、著しく不当な待遇でない限り、憲法違反とは考えられないとする結論が導き出されたものといえる」とあります。
 名誉市民に対して年金を支給している地方公共団体でも、同様に解しているものと考えられます。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 22:47 | 地方自治法

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