人事評価と分限処分(後編)

 また、職員の分限に関する条例では、人事評価が「継続して任命権者が定める基準を下回る場合であって、研修その他必要な措置を実施しても勤務実績の改善がない場合」を「勤務実績が良くない場合」(地方公務員法第28条第1項第1号)に該当するものとして、「降任し、又は免職することができる」と規定しています。
 この「勤務実績が良くない場合」とは、「その職に必要な適格性を欠く場合にも同時に該当することが多いと思われるが、理論的には職務を遂行するために必要な肉体的条件と精神的資質を備えていても、外的条件、たとえば、飲酒とか賭事などのために出勤状況が不良である場合も勤務実績が良くない場合に該当する。すなわち、職に必要な適格性は、素質、能力、性格などに根ざしているものに着目して判断するのに対し、勤務実績の良否は、勤務の結果について判断するものということができよう。いかなる場合が「勤務実績不良」に該当するかということは、個々の場合について判断するほかないが、現実には「その職に必要な適格性を欠く場合」との区別が困難なことが多いであろう」と解されており、「職員の勤務実績が不良であることについては、任命権者の客観的な判断によるべきであるが、勤務成績の評定結果(法第四〇1)など、客観的な資料に基づいて行われることが望ましい」(「逐条地方公務員法」橋本勇著/学陽書房)とされています。
 しかし、必ず5パーセントの職員が最低ランクに区分される相対評価によって評価された第5区分の職員は、同法第28条第1項第1号の「勤務実績が良くない場合」に該当するのでしょうか?
 同法第27条第1項は、「すべて職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない」と規定しています。そのため、法律上の義務はありませんが、分限処分を行う場合には、事実確認を十分に行い、対象職員の弁明を聴取したり、また、懲戒分限審査委員会等を設置することが望ましい(昭和31年6月26日行政実例)とされるなど、慎重かつ適切な配慮が求められています。
 「職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について」(平成18年10月13日人企−1626)では、次のような例示がされています。
「V 分限処分の検討が必要となる事例と対応措置
  1 勤務実績不良(法第78条第1号関係)及び適格性欠如(同条第3号関係)
   ⑴ 対応措置が必要となる例
    ○ 毎日のように初歩的な業務ミスを繰り返して作業能率が著しく低い状況であるとともに、定め
     られた業務処理も怠ることが多く、勤務実績が著しく悪い。
    ○ 無断欠勤や職場での無断離席を繰り返し、上司の注意・指導にもかかわらず来訪者や同僚
     等としばしばトラブルを引き起こして来訪者等からの苦情が絶えない。その結果、職員本人の
     業務が停滞しているだけでなく同僚職員の業務遂行にまで悪影響を及ぼしている。
   ⑵ 対応措置
     勤務実績不良の職員又は官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職
     員に対しては、一定期間にわたり、注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の
     見直し、研修等を行い、それによっても勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状
     態が継続する場合には、分限処分が行われる可能性がある旨警告する文書(警告書)を交付
     する。その上で、一定期間経過後もこれらの状態が改善されていないことにより当該職員が法
     第78条第1号又は第3号に該当するときには、分限処分を行う。」
 最終的には、大阪府が職員基本条例をどのように運用するかにかかっているのでしょうが、勤務実績の不良や適格性の欠如については、個々の職員の具体的なケースを総合的に検討するものとされていることから、同条例の規定を根拠に分限処分を行った場合は、比例原則違反等により、当該処分が違法であるとされる可能性があるのではないでしょうか。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 21:33 | 地方公務員法

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