地方公務員の範囲(前編)

 ある者が地方公務員であるかどうかということは、実は難しい問題であったりします。
 地方公務員法によると、地方公務員とは、地方公共団体及び特定地方独立行政法人の全ての公務員をいう(第3条第1項)と定義されていますが、一般的に地方公務員に該当するかどうかの判断基準としては、@職務の性質、A任命行為の有無、B報酬の支払いの3つの要件が挙げられており、これらの要件を基に、その者の事務処理の根拠となる法律関係ごとに、その目的と実態に即して具体的に判断することが必要であると解されています。
 なお、国家公務員の場合は、人事院が、「ある職が、国家公務員の職に属するかどうか及び本条に規定する一般職に属するか特別職に属するかを決定する権限を有する」(国家公務員法第2条第4項)とされていますが、地方公務員の場合は、これに相当する規定がないことから、各任命権者が判断することになると解されます。
 具体的な解釈としては、「逐条地方公務員法」(橋本勇著/学陽書房)に次のように記されています。
「これまで行政実例によって特別職の地方公務員とされたものに、学校医(昭二六・二・六地自乙発第三七号)、蚕業技術普及員の委嘱を受けた養蚕農業協同組合の職員(昭二六・三・一三自治公発第七二号)、国の指定統計調査事務に従事する統計調査指導員で地方公共団体の長の任命にかかるもの(昭三五・九・一九自治丁公発第五〇号)、町村の地区駐在員(昭二六・三・一二地自公発第六三号)、市の通知などの連絡に当たり、若干の手当を支給される町世話人(昭二六・五・一地自公発第一七九号)、市町村末端事務連絡員(昭四一・一二・二六自治行第一三五号)があるが、これらの者が直ちに地方公務員に該当するかは疑問である。これらの者について、地方公務員とする明確な意思をもって任命したのであればともかく、ボランティアとして、行政に対する協力を依頼し、それに対する謝礼を支給しているにすぎないような場合にまで、これを地方公務員とする必要はない。地方公共団体が委嘱状を交付しているが、当該地方公共団体の具体的な支配監督下にない害虫駆除のための衛生協力員、青少年の指導のための青少年委員、防犯協力員、交通指導員などについても同様である。これらについては、問題になっている具体的な法律関係ごとに、地方公共団体の権利義務を考慮すれば足りるのであり、一般的に地方公務員であるか否かを決める必要性も妥当性もない。」
 このことから、流行の当該市町村出身の有名人によるふるさと大使、観光大使等については、単なるボランティアと考えてよさそうです。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 19:47 | 地方公務員法 | コメント (0) | -

急施事件の認定

 普通地方公共団体の議会には定例会と臨時会があり(地方自治法第102条第1項)、定例会は、毎年、条例で定める回数、招集しなければならない(同条第2項)のに対し、臨時会は、必要がある場合に、その事件に限って招集するものとされています(同条第3項)。そのため、臨時会の付議事件は、長があらかじめ告示しなければならない(同条第4項)とされており、告示された事件以外の事件については、緊急を要するもの以外は、審議することができません。
 この「急施事件であるかないかの認定は当該議案の発案者が長である場合は長、議員である場合は議員がするものであるが、議会も当該議案の審議に当ってその認定をすることができるものと解」(昭和28年4月13日行政実例)されています。ただし、この認定には客観性が必要とされており、「もし、この認定に客観性がなければ、当該事案の提案及びこれに基づく議決は違法のものたるを免れない」(「注釈地方自治関係実例集」地方自治制度研究会編/ぎょうせい)と解されます。
 ちなみに、長が急施事件として提出した事件を議会が認めない場合は、どうするのでしょうか。「議員・職員のための議会運営の実際1」(地方議会研究会編著/自治日報社)には、次のようにあります。
「急施事件の認定は提出者の長にありますから、議長が急施事件でないと判断したり、また、議会運営委員会の決定に基づき議事日程に掲載しなかったりすることはできません。当該事件に客観性があるならば、長と議会はともに急施事件と認定するはずですが、議会で審議の結果、議会が緊急性がないと認定するときは、当該事件を審議未了または継続審査とすることになります。これに対し長は必要があれば専決処分をすることができます。」

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:12 | 地方自治法 | コメント (0) | -

生活保護

   生活保護法(昭和25年法律第144号)
(この法律の目的)
第1条 この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民
 に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その
 自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第2条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」とい
 う。)を、無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第3条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができ
 るものでなければならない。
   (以下略)
 芸人の親族による生活保護の不正受給疑惑に端を発し、この問題がクローズアップされるようになってきました。ただ、報道を見ていると、問題の本質を理解していないのか、それともあえてそうしているのか、建前だけの議論が目につきます。
 守秘義務と個人情報保護制度に守られながら、被保護者を絶対的に正義の社会的弱者であると位置づけてきたことが、この問題をここまで根深いものにしてしまった原因ではないでしょうか。
 ちなみに、「本当に生活保護が必要な人」は、被保護者の何パーセントぐらいを占めるのでしょうね。現役ケースワーカーに聞いてみたいものです。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:23 | その他 | コメント (0) | -

人事評価と分限処分(後編)

 また、職員の分限に関する条例では、人事評価が「継続して任命権者が定める基準を下回る場合であって、研修その他必要な措置を実施しても勤務実績の改善がない場合」を「勤務実績が良くない場合」(地方公務員法第28条第1項第1号)に該当するものとして、「降任し、又は免職することができる」と規定しています。
 この「勤務実績が良くない場合」とは、「その職に必要な適格性を欠く場合にも同時に該当することが多いと思われるが、理論的には職務を遂行するために必要な肉体的条件と精神的資質を備えていても、外的条件、たとえば、飲酒とか賭事などのために出勤状況が不良である場合も勤務実績が良くない場合に該当する。すなわち、職に必要な適格性は、素質、能力、性格などに根ざしているものに着目して判断するのに対し、勤務実績の良否は、勤務の結果について判断するものということができよう。いかなる場合が「勤務実績不良」に該当するかということは、個々の場合について判断するほかないが、現実には「その職に必要な適格性を欠く場合」との区別が困難なことが多いであろう」と解されており、「職員の勤務実績が不良であることについては、任命権者の客観的な判断によるべきであるが、勤務成績の評定結果(法第四〇1)など、客観的な資料に基づいて行われることが望ましい」(「逐条地方公務員法」橋本勇著/学陽書房)とされています。
 しかし、必ず5パーセントの職員が最低ランクに区分される相対評価によって評価された第5区分の職員は、同法第28条第1項第1号の「勤務実績が良くない場合」に該当するのでしょうか?
 同法第27条第1項は、「すべて職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない」と規定しています。そのため、法律上の義務はありませんが、分限処分を行う場合には、事実確認を十分に行い、対象職員の弁明を聴取したり、また、懲戒分限審査委員会等を設置することが望ましい(昭和31年6月26日行政実例)とされるなど、慎重かつ適切な配慮が求められています。
 「職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について」(平成18年10月13日人企−1626)では、次のような例示がされています。
「V 分限処分の検討が必要となる事例と対応措置
  1 勤務実績不良(法第78条第1号関係)及び適格性欠如(同条第3号関係)
   ⑴ 対応措置が必要となる例
    ○ 毎日のように初歩的な業務ミスを繰り返して作業能率が著しく低い状況であるとともに、定め
     られた業務処理も怠ることが多く、勤務実績が著しく悪い。
    ○ 無断欠勤や職場での無断離席を繰り返し、上司の注意・指導にもかかわらず来訪者や同僚
     等としばしばトラブルを引き起こして来訪者等からの苦情が絶えない。その結果、職員本人の
     業務が停滞しているだけでなく同僚職員の業務遂行にまで悪影響を及ぼしている。
   ⑵ 対応措置
     勤務実績不良の職員又は官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職
     員に対しては、一定期間にわたり、注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の
     見直し、研修等を行い、それによっても勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状
     態が継続する場合には、分限処分が行われる可能性がある旨警告する文書(警告書)を交付
     する。その上で、一定期間経過後もこれらの状態が改善されていないことにより当該職員が法
     第78条第1号又は第3号に該当するときには、分限処分を行う。」
 最終的には、大阪府が職員基本条例をどのように運用するかにかかっているのでしょうが、勤務実績の不良や適格性の欠如については、個々の職員の具体的なケースを総合的に検討するものとされていることから、同条例の規定を根拠に分限処分を行った場合は、比例原則違反等により、当該処分が違法であるとされる可能性があるのではないでしょうか。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 21:33 | 地方公務員法 | コメント (0) | -

人事評価と分限処分(中編)

 大阪府は、職員基本条例の施行に伴う関係条例の整備に関する条例例第1条で職員の分限に関する条例第3条を次のように改正しています。
(後任又は免職の事由)
第3条 職員が、次に掲げる場合に該当するときは、法第28条第1項第1号に該当するものとして、こ
 れを降任し、又は免職することができる。
 ⑴ 人事評価(職員基本条例(平成24年大阪府条例第86号)第14条第1項に規定する人事評価を
  いう。以下同じ。)が継続して任命権者が定める基準を下回る場合であって、研修その他必要な措置
  を実施しても勤務実績の改善がない場合
 ⑵ 担当すべきものとして割り当てられた職務を遂行してその職責を果たすべきであるにもかかわら
  ず、その実績が良くないと認められる場合
2 職員が、将来回復の可能性のない、又は法第28条第2項第1号による休職の期間中には回復の見
 込みが少ない長期の療養を要する疾病のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと
 が明らかなときは、同条第1項第2号に該当するものとして、これを降任し、又は免職することができ
 る。
3 職員が、次に掲げる場合に該当するときは、法第28条第1項第3号に該当するものとして、これを降
 任し、又は免職することができる。
 ⑴ 第6条第6項の命令に従わなかった場合
 ⑵ 1月以上行方が不明である場合(正当な理由なく欠勤をした場合又は災害によることが明らかな
  場合を除く。)
 ⑶ 簡単に矯正することのできない持続性の高い素質、能力若しくは性格に起因してその職務の円滑
  な遂行に支障があり、又は支障を生ずる蓋然性が高いと認められ、職員として必要な適格性を欠くと
  認められる場合
 しかし、「逐条地方公務員法」(橋本勇著/学陽書房)には、地方公務員法第27条第2項が「分限処分の根拠規定であり」、「もっとも重い処分である免職と次に重い処分である降任については、」「その事由をもっぱら地方公務員法で定める場合に限定している。次に重い処分である休職は、地方公務員法で定める場合のほか、条例で定める場合も行いうることとし、もっとも軽い処分である降給は、もっぱら自主立法である条例で定めるところに委ねている」とあります。つまり、免職及び降任に関する事由については、同法第28条第1項でのみ規定されるものであって、条例制定権は及ばないと解されているのではないでしょうか。ならば、このことについて定めた職員の分限に関する条例第3条の規定は、無効であると解されるのではないでしょうか。
 条例で規定すればどんなことでもできると、また、どんなことでも条例で規定することができると思っている人がいますが、それは、大きな間違いです。「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」(地方自治法第14条第1項)のです。
 なお、「降任または免職の処分を行う事由として、本条第1項は四つの事由を定めているが、それぞれの場合に該当するかどうかは客観的標準に照らして決定すべきであり、いかなる分限処分を行うかは、その内容と程度に応じて任命権者が裁量によって決定すべきものであるが、裁量の範囲を逸脱してはならないことはいうまでもない」(前掲書)ことです。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 15:56 | 地方公務員法 | コメント (0) | -
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