続・損害賠償の額(後編)

 この問題は、けっこう意見が分かれるのではないかと思っているのですが……反則法制的には、@です。
 まず、地方自治法第96条第1項第12号の和解は、「民法第695条の和解、民事訴訟法第89条の訴訟上の和解及び同法第275条の訴訟提起前の和解のすべてを含む」(昭和30年3月12日行政実例)と解されており、このうち、民法第695条は、「和解ハ当事者カ互ニ譲歩ヲ為シテ其間ニ存スル争ヲ止ムルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス」と規定しています。つまり、和解とは、交通事故が発生した場合には、加害者と被害者とが互いに譲歩して争いを解決する契約のことです。
 そして、「地方公共団体が損害賠償の義務を負うことについて議会の議決に係らしめているのは、その賠償額の決定が地方公共団体にとって異例の支出義務を負うものであるとともに、その責任の所在を明らかにし、賠償額の適正を図るための趣旨によるものである。したがって、損害賠償の額の決定について執行機関の事務を監視して、その適正な事務処理を担保することにあるものと解されて」(「逐条地方自治法」松本英昭著/学陽書房)います。よって、地方自治法第96条第1項第13号の「法律上その義務に属する損害賠償の額」とは、当該地方公共団体が実際に支払う金額ではなく、法律上、損害賠償義務を負っている金額であるとされています。そのため、自動車損害賠償保障法第16条第1項の規定により被害者に直接保険金が支払われた場合には、それを含めた損害賠償額の総額が、また、過失相殺によって損害賠償義務を負う額と実際の支払額とが異なる場合には、損害賠償義務を負う額が、「法律上その義務に属する損害賠償の額」であると解されています。
 そもそも、この問題のようなケースでは、どのような示談(和解契約)を締結しますか?相手方に現に損害が発生している以上は、当事者の一方のみが譲歩することにも、当事者間に争いがないとすることにも無理があるように思います。この場合は、「法律上その義務に属する損害賠償の額」を明記した示談を締結し、その上で、相手方に損害賠償請求権を放棄してもらいませんか?自分なら、そうします。これが@の理由です。
 なお、損害賠償額が0円の場合は、和解にも該当しないと解している市町村もあるようですが、この問題は、損害賠償額が0円の場合ではありません。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:22 | 地方自治法 | コメント (0) | -

続・損害賠償の額(前編)

 「地方財務実務提要」(地方自治制度研究会編集/ぎょうせい)に「交通事故に係る損害賠償責任」という次のような質疑応答があります。
問 市の職員が公務遂行中に交通事故を起こした。被害者の方に損害賠償請求権があるにもかかわら
 ず、何ら請求を行わないので、市が道義的積極的に金額を明示し、示談書を締結した。このような場
 合でも、議会の議決が必要か。
答 質問の具体的事実が明らかではありませんので確答はしかねますが、職員の行為が、公務遂行中
 ということから、国家賠償法上の公権力の行使に当たるものとの前提で考えますと、当該職員が故意
 又は過失により違法に他人に損害を加えた場合であると推定されます。この場合、国家賠償法上市
 は、損害賠償の責に任ずることが明定されており、相手方が損害賠償をしないとはいっても、示談書を
 締結するといった具体的行動をみるならば、相手方が損害賠償請求権を放棄するといった内容であれ
 ば前提が変わってきますが、右のような前提での見舞金等に係る示談書の締結である場合には、(そ
 れが社会通念上損害賠償といえない程度のものであるならばこれまた別ですが)いちおう損害賠償と
 解すべきであり、当然自治法第九六条第一項第一三号の議決を要するものと解します。
  なお、次の行政実例を参考にして下さい。
  ○損害賠償の額を定める場合の議会の議決と長の専決処分
  (昭和二六年一〇月一五日 地自行発第三三〇号 静岡市議会事務局長あて 行政課長回答)
  問一 第九六条第一項提一一号(現行法では第一項第一三号)に規定する法律上その義務に属す
     る損害賠償の額を定めることについて、市消防職員が誤って交通事故を起こしたが、当事者  
     (市当局及び被害者)間に、市当局から被害者に対し医療費及び見舞金を贈ることにより示談と
     なった場合、これら二件の金額の決定については、その金額の多少にかかわらず法律上その
     義務に属する損害賠償の額を定めることとして、当然議会の議決を必要とするか。
   二 右の事由の有無にかかわらず第一八〇条第一項の規定に基き、一定の金額を限度としてあら
     かじめ議決により特に指定し、その範囲内において長に専決処分させることができるか。
  答一 医療費及び見舞金が損害賠償のためのものであるときはお見込みのとおり。
   二 お見込みのとおり。
 何だか分かりにくい答ですが、一応、議決が必要ということです。では、この問の場合で、相手方が損害賠償請求権を放棄したときには、議会の議決が必要でしょうか。
 考えられる方法としては、次のとおりです。
@ 損害賠償の額を定めること及び和解についての議決が必要
A 和解についての議決のみ必要
B 議決不要

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:16 | 地方自治法 | コメント (0) | -

職員基本条例に見る地方分権

 「橋下徹大阪府知事が代表を務める「大阪維新の会」が、府と大阪、堺両市の職員を対象に免職や降任など分限処分の基準を定めた条例案を提出する方針を固め、一定の条件下で余剰人員を「整理解雇」できる規定を盛り込む方向で検討していることが8日、維新の会幹部への取材で分かった。
 府と両市の3議会に相次いで提出する構え。人件費削減などで行政スリム化を容易に実行するのが目的とみられるが、「身分保障」が前提となってきた公務員制度を抜本的に見直す内容で、職員組合や教育界などが反発するのは必至だ。
 橋下知事は任期満了前に知事を辞職し、11月27日の大阪市長選を知事選との「ダブル選」に持ち込む意向。選挙前の条例案提出で公務員改革を争点化し、大阪市役所改革への決意を強調する狙いもあるとみられる。
 新藤宗幸元千葉大教授(行政学)は「労働基本権が制約されている公務員の現在の労使関係を理解していないのではないか。民主主義や人権を無視した内容で選挙向けのアピールにすぎない」と批判した。」(8月9日付け毎日新聞朝刊)
 いささか古い記事で恐縮ですが、この記事を読んで知り合いの府職員に確認したところ、「維新の会が勝手にやっていることで、大阪府としては了知していない」とのことでした。しかし、もしもこんな条例が制定されたらどうするのでしょうか?内容によっては、法令違反の条例が制定されることになってしまいます。
 ここで、ある首長がよく言う話を思い出しました。要約すると次のとおりです。
「政治家にとって、大事なのは民意である。民意の前では、法律など何の意味もない。この民意によって全ての政策が決定されるべきである。これが地方分権、地域主権の目指すところである。そして、その民意を得て選ばれたのが自分である。」
 その根底にあるものは同じものではないでしょうか。ちょっと利口かそうでないかの違いがあるだけの、第2、第3の阿久根市長がこれからも誕生してくるのではないかと考えてしまいます。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:13 | その他 | コメント (0) | -

条例の制定改廃の報告

 「第3条第3項の条例を除くほか、普通地方公共団体は、条例を制定し又は改廃したときは、政令の定めるところにより、都道府県にあっては総務大臣、市町村にあっては都道府県知事にこれを報告しなければならない。」(地方自治法第252条の17の11)
 このことについて、Kei-zuさんが次のような記事を書かれています。
 改正自治法の施行
 実は、地方課(現在の市町村課)へ出向していたとき、この事務を担当していました。といっても、一べつもせずにファイルにつづって係内で供覧するだけでしたが……一方、自分の前の前の前にこの事務を担当されていたN市のMさんのように、喜々として条文を読みあさり、法制執務上のチェックまでしながら、ユニークな条例を月刊「自治大阪」で紹介していたような強者もいらっしゃいますので、担当次第というところでしょうか。
 何はともあれ、報告義務がなくなって良かったです。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 19:54 | 地方自治法 | コメント (0) | -

条例のベンチマーキング手法

 九州大学の田中孝男先生は、条例のベンチマーキング手法を「他の自治体の最も優れた条例のシステムを、自己の自治体の現状と継続的に比較分析して、自己の条例の制度設計・運用に活かすこと」と定義されています。
 条例のベンチマーキング手法は、政策条例を制定する場合において、最もよく用いられている手法でしょう。ただし、○○市の条例をそのままコピーして、○○市を××市に変更するのみで何の分析も検討も行わずに思い付きで制定することをベンチマーキング手法とは言いません。それは、ただのパクリです。
 うん?何の話やろ?

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:07 | 政策法務 | コメント (0) | -

特定○○

 定義規定と略称規定は、その違いがはっきりとしません。「法制執務詳解」(石毛正純著/ぎょうせい)にも「定義規定は、用語の意義に社会通念上広狭の幅があり、又は解釈の余地があるという場合に、どのような意味でその用語を用いるのかを明らかにするために設けられるものであり、略称規定は、一定の長い表現を繰り返すことを避けるために、これを略して法文を簡潔にするために設けられるものである。定義規定と略称規定とは、以上のように区別されるが、そのいずれであっても、法文中の用語の意味内容を限定するという点からは共通の機能を有している面がある」とあります。
 その定義規定としても、略称規定としても用いられる用語として、「特定○○」というのがあります。この「特定○○」という用語は、専門用語として法令ではしばしば使用されていますが、市町村例規の定義規定又は略称規定でその使用例を見かけることは、ほとんどありません。
 市町村が独創的な条例を制定した場合、そこでの定義規定や略称規定には、メルヘンチックな用語が目に付きます。このような場合に、「特定○○」という用語をもっと使用していくべきではないかと考えています。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 19:46 | 法制執務 | コメント (0) | -
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