希望降任制度

 「職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれか一の方法により、職員を任命することができる。」(地方公務員法第17条第1項)
 「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降給されることがない。」(同法第27条第2項)
 今では、ほとんどの地方公共団体で希望降任制度が導入されていますが、元々、依願降任については、否定的に解されていました。以前は、降任とは、不利益処分であって、職員の依願によって行うものではない。どうしてもその職責を果たすことができないというのであるならば、「辞めてもらわなしゃあない」か、又は、一定の職にありながら自ら降任したいというのは、その職に必要な適格性を欠く場合に該当し、分限処分を行うべきであるというのが一般的な解釈であったように思います。
 「逐条地方公務員法」(橋本勇著/学陽書房)には、「分限処分は、職員の意に反する処分であるから、職員の意に反しない処分は分限処分ではない。……(略)……職員の同意を得て行われる降任や降給も分限処分ではない」と、また、依願休職について、「国家公務員法の解釈としては、同法所定の休職事由に該当する場合は、職員の意思の有無に関係なく休職にすることができるものとして、依願休職がありうることを肯定している(人事院行実昭二六・一・一二)。これに対し、地方公務員法の解釈としては、依願休職は認められないとされている(行実昭三八・一〇・二九自治丁公発第二九八号)。分限の規定により職員の身分を保障しなければならないのは、その意に反する身分取扱いであり、かりに依願休職を認めるにしても、それは分限処分ではあり得ない。そして、分限処分ではない依願休職を認めるかどうかは、勤務条件としてそのような措置を認める必要があるかどうかという観点から決定されるべきものである」とあることから、確かに、依願による降任や休職は、完全に否定されているものではないと解されます。
 しかし、「職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない」(地方公務員法第15条)ことを考えると、依願降任を制度として認める必要があるとは思えません。また、本来ならば、分限降任とすべき事例を希望降任制度によっているように思われてなりません。分限処分をしたくない人事課と分限処分を受けたくない職員との利害が一致した結果なのでしょうが、あまり感心しません。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:30 | 地方公務員法

コメント

どこの自治体にもいらっしゃると思いますが、「困ったちゃん」と「メンタルくん」。所属を転々とし、言わば押し付け合いが延々と続く。既に昇任していれば、給与は高く、若く優秀な職員のやる気を削ぐ一因となっています。そこで、「希望降任制度」の活用ですが、なかなか思うようには参りません。ところで、質問ですが、以前よく目にした「行政実例」、機関委任事務の廃止等で法令の解釈権は国と自治体の両方が対等の関係に立つと思いますが、地方公務員法の改正が余りなかった結果、このような50数年も前の古い実例を参考にせざるを得ないのでしょうか?

投稿者 gios : 2010年4月17日 08:36

一定、参考にする必要はあるのではないでしょうか。その上で、当該団体の判断だと思います。
この記事で言うと、希望降任制度が制度化されたというのが、時勢を踏まえた団体の判断ではないでしょうか。ただ、本来、分限処分すべきものまで希望降任制度によることは、地公法及びこの制度の趣旨を逸脱したものだと思います。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 2010年4月21日 20:02

 

投稿者   : 2013年8月12日 16:46

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