給与条例主義と規則委任

 2009年3月5日付け記事のコメントにいただいた御質問に対する回答(?)です。遅くなってしまい、申し訳ありません。
 地方公務員の給与については、「給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」(地方自治法第204条第3項)とされ、「普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには、これをその議会の議員、第203条の2第1項の職員及び前条第1項の職員に支給することができない」(同法第204条の2)と規定しています。
 「「法律又はこれに基く条例に基」づき支給するとは、法律上直接に給与の種類、額、支給方法等について規定があり、これによって直ちに給与が支給できるような場合に、これに基づいて支給すること、及び法律においてある種の支給について根拠があり、この法律の規定に基づいて条例で具体的に種類、額、支給方法等を定め、それに基づいて支給することをいう」(「逐条地方自治法」松本英昭著/学陽書房)と解されています。これを素直に読めば、規則に委任することに疑義が生ずるものと思われます。
 しかし、その一方で、地方公務員法第25条第1項が「職員の給与は、前条第6項の規定による給与に関する条例に基いて支給されなければならず、又、これに基かずには、いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない」と規定していることについて、「給与条例に規定すべき内容として、本条第3項は七つの事項を列記している。しかし、これらの列記事項は、現実に制定されている給与条例と必ずしも対応していない。たとえば、昇給の基準(第2号)は給与条例によって規則に全面的に委任されており、各種手当(第3号および第4号)もそこに掲げられているもの以外に数多くの手当が支給されている。その他の点についても、現実にはほとんど機能していないといっても過言ではない状態であり、実際に施行されている各地方公共団体の給与に関する条例は、国家公務員の給与に関する各法律やこれに基づく人事院規則等を基準として定められているところである」(「逐条地方公務員法」橋本勇著/学陽書房)としています。
 最近では「各種手当(第3号および第4号)もそこに掲げられているもの以外に数多くの手当が支給されている」ことはないと思いますが、確かに、級別資格基準表、初任給基準表及び級別標準職務表については、規則で定められています。このことは、国家公務員の一般職の給与に関する法律及び人事院規則が、地方公共団体の給与に関する例規のモデルとなっていることにその原因があると思われます。現に、給与条例において規則委任されている事項は、国家公務員の一般職の給与に関する法律において人事院規則に委任されている事項です。そうであるならば、規則に委任する事項を条例上明確に規定している限り、違法性の問題は生じないと思います。
 また、規則に委任した以上は、委任事項を定めるのは長の権限です。規則の提示を義務付けることはできません。それが許されないとお考えであるならば、条例案の審議において、条例事項とするよう求めるべきではないでしょうか。
 なお、「ワークブック法制執務」(法制執務研究会編/ぎょうせい)の問16の「政令に委任された事項を、当該政令で更に省令に委任することができるか」という問に対し、「まず、ある事項が法律の専属的所管事項とされる場合には、法律によるのであれば、そのような事項について規定することができることを意味するのであるから、少なくとも当該事項の基本的事項は法律において定められることを要し、そのような法律事項を包括的、全面的に政令に委任してしまうことは、当該事項が法律の専属的所管事項とされること自体を無意味にしてしまうので、違憲の疑いを免れないとされる。そうだとすれば、政令に委任された事項を当該政令で更に省令に委任することができるかという点についても、法律が委任事項を規定すべき法形式を政令と規定している以上、いわれもなくそのようなことが許されるとは考えられず、いわゆる再委任は、原則として許されないものと考える。ただ、必要やむを得ない場合において厳格に第一次の委任事項の範囲を超えず、その具体的な細目の規定だけを授権するようなものであれば、そのような再委任が許されないとまではいえないであろう」とあります。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 20:06 | 地方公務員法

コメント

 新規エントリでのご回答ありがとうございます。

>現に、給与条例において規則委任されている事項は、国家公務員の一般職の給与に関する法律において人事院規則に委任されている事項です。そうであるならば、規則に委任する事項を条例上明確に規定している限り、違法性の問題は生じないと思います。
 また、規則に委任した以上は、委任事項を定めるのは長の権限です。規則の提示を義務付けることはできません。それが許されないとお考えであるならば、条例案の審議において、条例事項とするよう求めるべきではないでしょうか。<

 なるほど上記の整理、よく理解できました。

 国の人事院規則によるのと、自治体における長の規則によるのとでは、機関分立という点で、やや違いがあるような気がいたします。
 もちろん自治体の長が直接選挙によって選ばれるという点では、その権限が相対的に強く(機関分立せずに)なっているというのもうなづける事ではあります。

 長と職員との自立的な関係を重視する場合と、職員の労働条件も民主制によるコントロールを受けることを重視する場合とでは、条例主義の範囲に諸説が対立することはありうるのだろうとも思います。

 なお、昨今問題となっている臨時職員等の“要綱”による任用・給与支払いには疑問が残ります。
 国(総務省)は、「任用」は“雇用にあらず”といっていますし。

 なお下記は素人の浅知恵ですが、よろしければご覧ください
http://blog.goo.ne.jp/gooendou_1958/e/71d741badefe087de2e8cd69be158aae

投稿者 えんどう : 2009年4月9日 23:42

非常勤職員の報酬及び費用弁償についても、また、記事にしたいと思っています。

投稿者 おおさか政策法務研究会管理人 : 2009年4月10日 19:12

 

投稿者   : 2013年9月21日 12:14

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