おおさか政策法務研究会の現状と課題


1 去るものは追わず、来る者は拒まず

  第2回大阪府下法規事務担当者研究会での参加呼び掛けに応じた21市の職員でおおさか政策法務研究会を設立。岸和田市で設立総会を開催し、幹事の選任、規約の承認等を行い、以下の基本的な活動方針と計画が立てられた。
 @ 会場等の運営は、当面幹事市の輪番制で行う。
 A アンケートの要望等を基にテーマを設定する。
 B 法務担当者以外の参加も認める。
 C 毎回研究会終了後懇親会を開催する。
 D 入退会は自由とするものの、無断欠席が3回続けば、自然退会として取り扱う。

2 活動内容

  これまでの活動の内容の一部を簡単に紹介すると、
☆ 法務担当者に求められるものは、「理屈」を守る頑なさと制度を変える柔らかさであり、条例をつくる場合には、制度の理解をきちっと行い、制度のハードルの高さが法律事項か、条例事項か、先例かを識別し、訴訟の可能性までも視野に入れた検討が必要という。
☆ 市民参加型の条例制定作業において、法務担当職員は、どの段階から参加すればよいのか、政策形成に係る法務の役割は何か、その現状と課題について議論を行った。
☆ 開発指導要綱の条例化では、現場の行政指導担当者の本音を聞き、条例制定の難しさを痛感させられた。経由庁としての指導の限界、民間の機関でも建築確認申請が受理できるようになったことに伴う、市との事前協議がなく行政指導が及ばないことに対する対応、手続的な上乗せ条例制定の可能性等について議論した。
☆ 住民投票条例では、定住外国人に対する参政権を認めても、失権者の扱いは現実には判別不可能であること。条例制定請求制度における法務担当職員の役割では、旧制度との比較、判例等を踏まえ、条例原案の規定上の不備を修正できるのか、条例案の実質的審査権が認められないことに対する問題点等について議論した。
☆ 第8回自治体法務合同研究会には、おおさか政策法務研究会から8名が参加した。この研究会での政策研究講座「まちづくり権の挑戦〜日田市訴訟〜」(講師 九州大学 木佐茂男教授)には、新鮮な驚きと感動を覚えた。
  ここでは、まちづくり権という新たな概念を構築することにより、地方自治権を保証し、確立しようとする市と議会、そしてそれを支援する住民がいる。更にそれを法律的に支える弁護団、学問的に行政法学的に支援する学者集団がいる。こういう新しい概念で、国を相手に果敢に訴訟に取り組む学者、研究者がいることに、敬意を払いながらも、もっと我々自治体職員が、地方自治を勝ち取る意識と努力をしない限り、自治権の拡大は望めないと感じた次第である。
  現在多くの自治体が係争する訴訟といえば、医療過誤、住民訴訟、損害賠償請求等そのほとんどが、敗訴はもちろんであるが、たとえ勝訴しても、あと味の悪い訴訟が多いのが現状である。こういう訴訟にこそ、自治体職員として、法務にかかわる職員であるが故になおさら、かかわってみたい願望にかられる。地方分権後の新しい息吹を感じさせられた。
  早速会員全員で「まちづくり権の挑戦〜日田市訴訟」(信山社)を購入することにした。

3 今後の活動計画

  これまでは、アンケートで要望の多かった内容を基にテーマを設定してきたが、今後1年間は、一つのテーマをいろんな角度から研究していくことにした。
  会員の3市が、自治基本条例の制定に取り組むことを受け、自治基本条例を、制定の意義、最高規範性、住民投票、パブリックコメント制度等いろんな観点から検討を加え研究していくことにし、できれば、大阪版自治基本条例試案を作りたいと考えている。
  また、適宜トピックスとして、いろんなゲストを招いたり、イベントを考えて行きたいと思っている。7月の研究会では、宝塚市パチンコ条例(宝恷sパチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例)に基づき、市が業者にパチンコ店の建築続行禁止を求めた訴訟の最高裁却下判決(平成14年7月9日最高裁第三小法廷)を取り上げた。
  10月、11月には、自治体職員から大学教授へと転進された2人のビッグな講師が来られる予定で、講師・助言者を探し求めていた研究会にはまたとないチャンスである。
  現在、会員は40代の中間管理職と20代の若手職員が拮抗している。若手職員の育成を図りつつ、彼らに負けないよう中年世代も老体に鞭を折って頑張っている。2回に1回程度は、彼ら若手会員の事例研究、事例発表を期待しているのが現状である。

4 これまでの成果と今後の課題

  当初、ほんの数名の仲間が集まって企画した研究会は、点から線へ、そして面へと拡がりをみせ、公的な地域(ブロック)の研究会組織、連絡会組織を立ち上げたり、ブロックの交流会、全体の研究集会を開催し、時には解散の危機にさらされながらも、5年余りのいろんな試行錯誤を繰り返しながら、ようやく一つの方向性と形が見えてきたように思われる。
  一昔前といえば、困ったときは、上司からよく上級官庁に聞けと言われたものだが、最近では、ほとんどそういうことはなくなったといえる。少しずつではあるが、自分たちで考え、判断するという本来の姿が現れてきている。また上司も、そういうことを言わなくなり、我々の意見を尊重し、判断することが多くなってきた。それだけに、我々の責任も重くなり、日々の研鑚が求められている。
  また、メーリングリスト等を通じて会員同士のネットワークがはられ、情報の発信、提供等が迅速に行われ、これまでに比べて、格段に有益な情報量が増加し、一人で悶々と悩むことは少なくなったといえる。
  研究会は、いつまでも入門講座、単なる情報交換だけで終わってはならないと考えている。一歩も二歩も上のレベルを目指して、今後も活動を続けて行きたいと念じている。
  それだけに、研究会を側面から支えてくれるよき理解者であり、研究者である指導者を早急に地元で発掘しなければならない。また、外部の人材を取り込み、民間の感覚と幅広い視点の導入を図りたいと考えている。
  自治体自らが勝ち取った地方分権ではないために、周りの職員に地方分権後何が変わったかと尋ねても「別に?」、「どうでもよい仕事がおりてきただけ」(不適当な発言であるが発言のまま)、「本省から直接電話がかかってきた」というくらいで、意識はきわめて低いのが現状である。
  大阪のいろんな自主グループの活動も以前に比べると非常に低迷している。
  昨今の公務員社会も、言わないとしない、言った仕事だけしかしない。かといって、出る杭は打たれる、出すぎた杭は抜かれる、という話をよく聞く。閉塞感が漂い、沈滞化した中で、意識改革を図っていくのは大変なことである。
  地方分権の流れの中で、自治体間格差、職員格差が今後ますます拡がるだろう。しかし、自治体は地域の政策主体として、地域をマネージメントし、その政策形成に責任を持たなければならない。我々自治体職員は、地方分権を自らの仕事の中で活かす努力をしない限り、これからの地方自治を切り開くことはできない、という気概をもって、今後とも活動を続けて行きたいと思っている。
平成19年1月27日更新

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